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「ライフ・イズ・ミラクル」 2回目

夏に観たエミール・クストリッツァの「ライフ・イズ・ミラクル」(“Zivot je cudo” / “Life is a miracle”)がまた都内で上映されてる!下高井戸シネマで一週間だけの上映。もうスクリーンで観れることはないと思っていたので、喜んで観に行きました。2回目のミラクル。…うそ。DVDの発売が待ち切れなくてイギリス版PAL DVDを買って観まくり済みだったので、本当は20回目かも。(ついでに告白すると、この映画を原語で味わいたい!という無謀な思いから一時期本気でセルビア語を学ぼうとしたんだけど、名詞が格変化し始めたあたりであっさり気が遠くなって挫折…笑)でも、やっぱり映画館で観るのは格別でした。さすがにもう、全国的に上映が終わってしまう時期だとは思うけど、もしまだ機会があるならぜひ。おすすめ。

以下、ネタバレは抑えてるけど、2回目だから、感想も2倍の長さです(笑)

最初にクストリッツァの映画に出会ったのは92年の「アリゾナ・ドリーム」で、映画ってこういうものだったんだ!!!と自分の映画観が変わってしまうほど衝撃を受けた覚えがあるんだけど、「ライフ・イズ・ミラクル」は、生きるってこういうことだったんだ!!!という衝撃。今まで、たかが映画1本で自分の人生観が変わってしまうことなんてあり得ないと思っていたけど、これはもしかしたら、これからの自分の生き方に影響を与えられてしまったんじゃないかという気がする。“人生はままならないけど、生きてるって、それだけで素晴らしい。”このコピー、的を得てるなぁ。観た後の実感が、まさにこれに尽きるんですよ。何があっても、生きるって、それだけで奇跡。

ストーリーの説明はめんどくさいのでこのへんを参照。(途中までかなり詳しく書いてあります)


「アンダーグラウンド」「黒猫・白猫」など過去の作品に比べると、批評家ウケがいまひとつみたいだけど、なんでー?個人的には、クストリッツァの最高傑作だと思うんだけど。去年のカンヌ委員長がタラじゃなかったら、パルムドール獲ってたんじゃないの?ついでに、主演男優賞はスラヴコ・シュティマツ(スティマチ)さんじゃないの?ていうか、誰かあのロバを表彰するべきじゃないの??

と、贔屓目いっぱいにしつこく詰め寄りたくなってしまうのだけど(笑)間違いなく、クストリッツァ映画の集大成であると同時に、新たな境地を開いた作品だと思う。

独特の浮遊感、映像美、騒々しさ。クストリッツァの作品を1つでも観たことがあれば、オープニングからうわぁぁぁクストリッツァきた!と思うに違いない飛ばしっぷり。前半だけで、サッカー試合→クマ狩り→記念式典→壮行会と息をつく暇もないカオスの連続で、1作でこんなに出しちゃって、この人これから大丈夫なの?と心配になってしまうくらいの贅沢さ。

だけど、後半から結末に至る展開が、なんだか新しい。クストリッツァの映画って、どんなに滑稽でも笑えても、観た後に強烈な切なさが残るのが印象的だった。でも、この作品は、どうしようもなく切ないことに変わりはないけど、最後、切なさと同時に希望の光が見えるような、今までにない前向きな感じがして。いつになく広がりのある美しい風景も、そんな突き抜けた明るさを物語っているみたいで。この人の世界の中で、何かが変わりつつある、そんな気がした。

年をとるににつれて作風がどんどん軽快になっていくという人も珍しい気がするけれど、それは決して丸くなってきたとか無責任になってきたとかいうことではなくて。アナーキーな鋭い視点は健在で、今回は特に、90年代のボスニア紛争のテーマに戻っているから、紛争で利益を得る者たちや西側メディアへの痛烈な皮肉があり、そして、もちろん争いそのものの愚かしさも強烈に浮かび上がってくるのだけど。同じテーマでありながら95年の「アンダーグラウンド」とは全く別のアプローチをしていて、紛争そのものの構図を大胆に見せる代わりに、紛争の中を生きていく、ごく普通の市民にスポットを当てているんですよね。そういう意味で、クセの強さが控え目で、より温かい印象を受けるのかもしれない。

例えば、クストリッツァにしてはアンチモラルな人がほとんど出てこない(悪徳政治家はいるけど)。そして、主人公がどこまでもいい人っていうのが新鮮。シュティマツさん、どうしてこんなに素朴ないい人キャラが似合うんでしょう…。善良な家庭人で、でもなんか呑気で、三度の飯より汽車が大好きっていうずれっぷり。いいなぁこの人。ヒロインも、ものすごくかわいいくせに、変に図太いところがあって、でも憎めない。

舞台となる村自体が、ど田舎で、世間と隔絶した少し不思議ワールド。思い切りアクの強いキャラがいない代わりに、村の住人がみんなどこかずれてて、おかしくってかわいい。エミール・クストリッツァという人自身は、思い切りアクの強そうな、こんな人だけは敵に回したくないと思うような恐ろしげなオッサンなんだけど、どうして描く世界はこんなにファンタジーでかわいいんだ? 冒頭のヒヨコのかわいさだけで、くらっときました。ヒヨコ・イズ・ミラクルですから。

動物、いつもに増して活躍してます。裏主役のロバは別格としても、犬、猫、白馬、ネズミ、アヒル、クマ…みんな演技すごいよ。それに加えて、はっちゃけた変な人間が次から次へと惜しげもなく出てくるんだもん。たまりません。とにかく、クストリッツァの世界では、人がすべる、こける、ぶつかる、落ちる、物を壊す、尻を出す、ずぶ濡れになる…今どきカートゥーンでもあまり見られないようなことが、実写で普通に起きます。出演者は大変だろうなぁ。今回の功労賞は、ろくな知らせを持ってこない郵便屋のオヤジですかね。あと、若い世代のキレっぷりが頼もしかった。

そして、今回私が完全に落ちたキャラが、主人公の奥さん、ヤドランカ。もう、この人大好き!彼女の凄まじさを説明しようとすると延々とネタバレしてしまうので控えますが、アクの強いキャラのほとんどいない中、この人、独り勝ち状態です。実生活でこんな人が身近にいたらそれこそ、人生ままならないだろうと思うけど(笑)この人がスクリーンにいるだけで、次に何をやらかしてくれるのかワクワクしてしまう。彼女のキャラを受け入れられるかどうかで、結構この作品の好き嫌いも分かれるかもな…。

クストリッツァの映画が長すぎるとかわけがわかんないとか感じる人は、たぶん笑いのツボが合わないんでしょうね。シュールとベタがせめぎ合ってるような笑いが。例えば、アキ・カウリスマキの映画が足の裏をこしょこしょされてるような感じだとすると、クストリッツァの笑いは、突然わき腹を攻撃されるみたいな感じ。(唐突に引き合いに出したけど、アキ・カウリスマキとクストリッツァって、共通項も多いのに全てのベクトルが真逆な感じがしておもしろいなぁと思って。作品の長さといいテンションといい、出てくる人間や動物の行動様式といい…。)

カウリスマキ作品は傍観するのが楽しいけど、クストリッツァの映画は、特に「アンダーグラウンド」以降の作品は、傍観してるだけだと自分だけ飲めない飲み会みたいでツライものがある。巻き込まれないと。そういう意味では、映画館だとおとなしく観ていなくちゃいけないのがちょっと残念。家でほどよく酔っぱらった時なんかに観て、一緒に歌って踊り狂うと非常に楽しいです。(傍から見たら非常に危ない人かも。)

決してミュージカルってわけじゃないんだけど、登場人物が始終歌い踊ってるイメージがあるんですよね。加えて今回は、わざとらしくミュージカルを意識したようなシーンがいくつかあって、これがまた笑える。鉄道完成の記念式典でヤドランカwith村の素人楽団が披露するオペラは傑作だった。史上最低のミュージカルシーンだよ。わき腹よじれまくり。あと、腐敗政治家を乗せた汽車がやって来るシーンの、ヴィランズソング。あれも凄かった…。このあたりで、クストリッツァはもう本格的にミュージカルを手がけるべきなんじゃないかと思ったわけなんだけど、どうやらこのお方、それどころか今、自分の過去の作品をオペラでリメイクする企画を進めてるらしい(いやマジで)。今回の凄まじいオペラシーンを思い出しただけで、どうなることか空恐ろしいんですが…。

それはともかく、この作品の音楽は本当に素晴らしい、というより、クソッ素晴らしい。映画音楽の常識を無視した、ふざけてんだか本気なんだかよくわかんない、泥臭くて異様にドンチャカしたサウンドなんだけど、いつの間にかそのテンションに巻き込まれ、いつの間にか、泣かせやがって!と悔しくなってるような。サントラCDも、改めておすすめ。笑わされ、踊らされ、気がつけば泣かされてる1枚。ただし、冷静に考えると、大事な挿入歌(例のヴィランズソング含め)が3曲も抜かされてるわりに本編に全く出てこない歌が平然と5、6曲は入ってる不思議仕様…。誰か、ノー・スモーキング・オーケストラにオリジナル・サウンドトラックの意味を教えてあげてください。

…なんだか、人生観変えられたとか言ってるわりにはアホくさい感想に終わってしまったけど。そのうちまた、日本版DVDが出る頃にでも、肝心なところを含めネタバレ編を延々と綴る予感。
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