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「街のあかり」

アキ・カウリスマキの最新作「街のあかり」(Laitakaupungin valot:2006年独仏フィンランド)を観てきた。

…。終わった後、思わず映画の登場人物並みに無口になる。どうしてこんなに、たまらない映画なんだろう…。

(以下、少々ネタバレあり)

「浮き雲」「過去のない男」に続く“敗者三部作”のラストを飾るに相応しい、負け犬映画。主人公の負け犬っぷりときたら、ちょっと前例が思い浮かばないくらい完璧なものでした。アキの映画に出てくる顔は、大抵いつも幸薄そうだが、この主人公に限っては、薄いなんてもんじゃない。幸が全くない。あんた、顔に“負け犬”ってでっかく書いてあるよ、と教えてあげたくなるほど。ついでに背中にも“負け犬”って書いた紙を貼られてて、しかもこっちは本人気づいてるのに手が届かなくてはがせない、そんな感じ。だって、数回会った女がおもむろに口を開いただけで、自分から即「別れ話か?」とか言っちゃうんだよ(→しかも的中)。あんた、それが負け犬なんだよーって。もどかしいったら。

そんな負け犬に、不幸が襲い掛かる。次々と。まるで「マッチ工場の少女」並みに悲惨な展開なのだけど、あの少女の場合は、不幸を突き抜けたような潔さがある種の救いになっていて、観ている方も思わず笑っちゃうことができた。今回の負け犬氏にはそんな余裕すらない。かつてのマッチ工場の少女ことカティ・オウティネンが、ハードボイルドな無表情で負け犬氏を見つめるカメオ出演シーンがあるのだけど、そのまなざしが「あんた、まだまだ甘いわね」と言ってるみたいな気がしてしまった。

そんなカティ・オウティネンも「浮き雲」では粘り強く成功を手に入れたし、「過去のない男」も、どん底の生活でも希望を失わず積極的に生きていた。「街のあかり」の負け犬氏も、基本的な姿勢は彼らと変わらない。起業しようなどという無茶な夢を抱いてあれこれ努力はするし、どんなに裏切られても愛した女をかばい続けるし、どんな不運に見舞われてもめげたりしない。なのに、前二作と決定的に違うのは、何ひとつうまくいかないというところ。これはいったい、どういうわけなんでしょうか。

考えてみると、「浮き雲」「過去のない男」は、アキの映画にしてはずいぶんハッピーな展開だった。(そのハッピーの度合いが、一般的な価値観よりはだいぶ低いところにあるとしても。)苦境でもポジティブに生きる主人公の、サクセスストーリーと言ってもいいような感じで。だからといってそれは、アキ・カウリスマキが若い頃よりこの世の中に対して楽観的になったとか、そういうわけではないように思えた。むしろ、悪くなっていく一方の世界で、映画の中くらいは理想的な展開で人々に希望を与えたい、そんな切実さからくる、わざとらしいまでの明るさのような気がした。とすると。今回の、あまりにも救いのない展開は、一向によくならない理不尽な社会を見据えたアキの、一層切実な思いから来ているような気がするんだよね。

現実には、この主人公みたいな状況は稀かもしれない。これはあくまでもフィクションであり、ファム・ファタールやらマフィアやらの出てくる映画的な物語だから。でも、ここまで特殊じゃなくても、私たちの生きる現実に、似たような理不尽はたくさん転がっているんじゃないかと。これをひとつの極端な例え話、寓話として見るのなら。過酷な競争社会で、切り捨てられていく愚直な人間。やせ細った犬のように、ひどい仕打ちにも従順に耐え、辛抱強く生きるしかない。耐えられなくなって反抗心のかけらを見せたところで、すぐに叩きのめされる。それでも、なんとか生き続ける。負け犬にだって、意地がある。

踏みにじられても雑草のように生きていく、負け犬の現実。そこにドラマチックな成功や幸運が訪れることは、たぶんないのだろう。それでも、決して絶望することはないよ、とこの作品は言ってくれているようで。握った手のほのかな温もり。朝の薄い光。ささやかな、吹けば消えてしまうような灯であっても、それを支えに人は生き続けることができるのだから。もしかしたらこれは、厳しい現実を生きる負け犬に共感を寄せ続けたアキ・カウリスマキが辿り着いた、究極のオプティミズムなのかもしれない。

あのソーセージ屋のおねえさんとパユがいれば、どんな世界でも生きていける気がしてきます。
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