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American Dog -あるいは裏切りという目に遭った犬

Once upon a time...
一匹のキュートなワンちゃんがいました。このワンちゃんを育ててくれた“オハナ”は、ちょっぴり変わり者のおじさんです。おじさんは、ワンちゃんがお友達のウサちゃんやニャンコと一緒に繰り広げた風変わりな冒険を元に映画を作っていました。ところがある日、見知らぬ男たちが侵入してきて、ワンちゃんは無理やりおじさんから引き離され、どこかへ連れて行かれてしまいました。おじさんとはもう二度と会えません。いつの間にか、お友達のウサちゃんやニャンコも消えてしまいました。そして気がつくと、ワンちゃんは、もう以前のキュートな丸顔のワンちゃんではなくなっていました…


クリス・サンダースがとうとうディズニーを辞めたそうだ。

情報元がVarietyとかJimHillMediaくらいしかないので事実確認はできないけど(といっても、この手のニュースで公式の発表なんていつもないよね)、“American Dog”監督降板の当然の結果でしょう。正直なところ、私は昨年12月の降板騒ぎ自体、今月に入ってようやく知った次第なんだけど、人の好さそうなクリスでも怒って辞めて当然の状況と思ったよ。私なんか知った直後は、思わずジョン・ウォーターズの「セシルB ザ・シネマ・ウォーズ」みたいな映画テロ集団に入ってD社を襲撃したくなったもんね。腕に“C. Sanders”ってタトゥー入れて。

冗談はさておき。事の次第は、(これも公式な筋の発表などないので)12月19日付のJim Hillや2月17日時点でのWikipediaを参考にまとめると、こんな感じ。昨年のディズニーのピクサー買収によって問題化した、WDFAとピクサーとの社内競合。これを解決すべく、アニメーション事業のトップに立つピクサーのジョン・ラセターとエド・キャットマルは、WDFAで製作中のCG作品の見直しに乗り出したわけ。(もはやお約束のように易々と行われるWDFAのスタッフ大量解雇も伴って。)ほとんど完成しちゃってる「ルイスと未来泥棒」は不本意でもこのまま公開するしかない。まだ初期段階だった「ラプンツェル(仮)」は、手描きアニメーションに変更させることに。問題は、製作がかなり進んでいて2008年の公開も決定済みの「アメリカン・ドッグ(仮)」。製作を中断させて揉めた結果、とりあえずはCGのままで進める方向になったものの、ラセターとキャットマルは作品の内容に大幅な変更を求めてきた。当然、原案からの生みの親である監督クリス・サンダースには了承できない。結果、クリス・サンダースは降板、新監督にはサンダースの元ストーリーボード仲間のクリス・ウィリアムスが抜擢され、ストーリーもキャラクターも大幅に書き直されることになった。巨大なウサギや眼帯をしたネコなどの奇抜なキャラクターは削除、主役の犬はヒーロー的なルックスに変更、ストーリーからは風変わりなテイストが一掃され…。

驚くことではないのかもしれない。ピクサー買収の時点でこのブログにも書いた通り、こういうことになる予想はできたもんね。だからといって、ほら言った通りじゃんと威張りたい気分にはとてもなれないよ。嫌な予感が最悪の形で現実になってしまったんだから。

映画産業も産業である以上、ビジネスとして儲けを考えないといけない側面があることは否定しない。映画会社の意向で監督の交代が行われるのも、商業映画の世界では珍しくない話。でもそれが、ひとりのアーティストのアイデアから生まれ、彼が仲間と一緒に育ててきたプロジェクトだった場合は?会社の都合で奪って作り変えて当然という傲慢さはどうなんだろう。

そもそも、猫も杓子もCGの時代に「リロ&スティッチ」で水彩画と手描きアニメーションの良さを訴えかけたクリスにとって、CG作品に取り組むことには葛藤もあったはず。それでも、WDFAに残りたかったらCGで作るしかないという状況で、苦心の末、CGを活かして自分の世界を表現することに成功した。その矢先、WDFAではCG作品はもう作らないからお前は要らないと放り出される。自分が生み、結果的に会社に莫大な利益をもたらしたLilo & Stitch と、何年も取り組んできたAmerican Dogのすべての権利を会社にとられたまま。これが理不尽な仕打ちじゃなくて何だっていうんだ?クリス、辞めて当然だよ。

私もとうとうディズニーと決別する時が来た。これまでもディズニーに見切りをつけたくなったことはあったけど(フロリダスタジオ閉鎖とかピクサー買収の時とか)、その度に思いとどまらせていたのは、逆境でも細々と独自のアニメーションを作り続けているWDFAの存在だった。そういうWDFAが好きだったから。でも、もはやWDFAが独自性を保つことが許されなくなった今、あの会社には何も見出せない。本当のファンなら、こんな時こそWDFAの行く末を見守って、応援し続けるべきなのかもしれない。でも私には無理。もうたくさん。

オーケー、仮にクリス・ウィリアムスと残されたクルーのがんばりによって「アメリカン・ドッグ(仮)」が2008年の公開にこぎつけたとしよう。ピクサー流・健全な万人受けテイストに染め上げられた作品は興行的にまずまずの成功、その後のWDFAは手描きのアニメーションに専念するスタジオに生まれ変わり、“昔ながらの”ディズニー映画ファンも満足。この偉業を成し遂げたラセターはますますヒーローとして崇められる存在になりました。めでたしめでたし。

こんなの、正直我慢ならない。もう関わりたくないね。さよならディズニー。

この先、クリスはどうするんだろう。狭い世界だから、ドリームワークスに引っ張られるか、ジョン・マスカー&ロン・クレメンツみたいに結局ディズニーに出戻りになっちゃうのかな。無理な希望かもしれないけど、できることなら大手の会社とは縁を切って映画作りを続けてほしい。独自のテイストを持つアニメーション監督が自由に作れる環境が、どこかにあればいいんだけど。そういえば、クリス&ディーンで立ち上げたとかいうStormcoast Picturesはどうなったんだろう。ああ、私がビル・ゲイツだったら、今すぐ彼らのスポンサーになって好きなだけ好きなように映画を作ってもらうのに。私にできることと言ったら、悲しいことに、いまや幻となってしまった作品について語ることくらいだ。

Once upon a time...
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